こんにちは。
忙しさというのは舞い込むもので、なかなか時間がとれません。
そんな中、蜜柑の10キロ箱が底が見えたお話をいたしましたでしょ?
・・・・いそがしいということは人と会うということで。
蜜柑が3キロと10個追加されました。
むぐむぐむぐ・・・・
今年は蜜柑が豊作です。
微妙に増えた10キロの箱を見た家族が、何とも微妙な顔で私を見ました。
あの表情は秀逸だった・・・。
無音の拍手が続いております。
あれはやっぱり小話のエールなの?(笑)
このブログのコメントに非公開で入ります感想は明白なので、それは分かるのですが(笑)
(O様、ミヤコ様、ありがとうですよ~)
さて、今日は時間がないので、ヨタ話より、喜んでもらえてるっぽい小噺にうつります。
それでは皆様、拍手・ご来訪、誠にありがとうございました!
惟盛は、美しいものが好きである。
花鳥風月は言うに及ばず、水面に揺れる影、楽の音、ひるがえる袖や小さな揚羽蝶。
人も物も、無形のモノも、美しければそれだけで、惟盛の心を惹いた。
だから、当然だった。
その姿だけでなく、強ささえも美しい桜姫を恋うことは。
「桜姫、今少しよろしいですか。・・・・・なんです、あなたもいたんですか」
「・・・・・・・・何の用だ」
「あなたに用はありませんよ」
桜姫の室に声をかけ、御簾をくぐると、当然のようにそこには知盛がいた。
惟盛は眉宇をひそめ、扇で口元を隠す。
知盛と惟盛の険悪な様子に慣れっこの望美は意に介しない。
「惟盛殿、どうしたんですか?」
にこやかに問う。
この時代、本来ならば桜姫たる望美は御簾に隔てられ、対面はかなわないものであるが、望美自身の気性と、戦時中からの習慣で、そういったことは今でもない。
それを知盛はわずかに不快に思う。
これだから、いつまでも安心できない。
視線で牽制をかけてくる知盛を無視して、惟盛は渡殿に置いていたものを差し出した。
「・・・・・これは」
「本当は、戦の前に頼んでいたのです」
見事な織りの、極上の綾錦に望美は驚いた。
気恥ずかしそうに、惟盛がする。
そのしぐさはまるで生前そのままで、望美は少し涙ぐんだが、惟盛の目は逸らされているから、それには気づかなかった。
気づいた知盛が少し苛立った。
「職人は仕上げてくれていたようです。図面は、私が描いたのですよ」
「惟盛殿が?すごい・・・!」
「ふふ、そうですか?」
――――あなたを想って、描いたのだと言ったら。
惟盛は少し、息を吸い込んだ。
「あなたにどうかと思いまして。渾身の作ですよ」
「えっ、見せていただけるだけでなくて?・・・・でも」
「これを着ての、舞をひとさしお願いしたくて」
惟盛は何でもない風に笑う。
望美はちらり、と知盛をうかがった。
本当は、恋人でない者からの衣を纏うわけにはいかないのだろうが、惟盛からの贈り物を無碍にすることはしたくない。
望美にとってはかけがえのない家族だから。
知盛は、はあっと息をついた。
大変面倒そうに。
「・・・・・・好きにしろ」
「・・・いいの?」
「ああ・・・・・」
知盛の承諾に、望美は花のように微笑んだ。
着替えると言って、別室に行ってしまう。
「束縛せぬのは感心ですね」
「俺はあれのおねだりには逆らえぬのでな・・・・・」
「ふん、まあいいでしょう」
惟盛は望美の去った方を見たまま、知盛とは目も合わせない。
あなたを想って。
それを口に出していたら、きっと困らせただろう。
それは嫌だと思うから、惟盛はただ舞を望む。
美しいものが好きな自分が、美しいものを愛でるためだけで、他意はない。
そう思ってくれるのが、きっと一番いい。
「・・・・・・・口に出したら殺してましたか」
少しのあと、そう言った惟盛に、知盛は眉根を上げた。
惟盛の視線は微々とも動かぬままである。
死んだ身だろう、と言いかけて、知盛は口をつぐんだ。
それは、惟盛の、死してさえ変わらぬ想い。
「さてな・・・・・・・」
やがて、望美が現れた。
知盛はむっと眉をひそめた。
やはり許すのではなかったかもしれない。
今まで見たどれよりも、はるかに望美を惹きたて、美しく見せる装いに、惟盛は満足げに笑う。
無音の舞が始まる。
花鳥風月をも色褪せさせかねない、桜姫だけが醸す幽玄の空間がそこに現れる。
美しいものを愛する惟盛が、最も愛した舞は、今もそこにある。
自分が生きて傍にあった昔より、はるかに幸せそうな色を添えて。
それが惟盛の心を慰めるのだ。
あなたがたとえ手に入らなくても、・・・・・・それだけで。